試験終了2009年06月19日 16時50分22秒

 金曜午後の欧州農業法の口頭試験にて、すべての試験終了。

 15分前に、いくつかの中から無作為で選んだ問題を渡されて準備したのち、担当講師ふたりの前で発表と質疑応答。

 引き当てた問題がこれ。
「EUにおける農業者への収入助成について」
 生産にリンクした補助金、農業予算の膨張、GATT交渉の文脈下で行われた1992年のマクシャリー改革において、価格支持政策から収入補てんへの転換が定められ、直接支払を導入した1999年改革を経て、2003年改革でデカップリングと環境適合要件を前提とする単一・直接支払が固まった、という流れ。
 ま、この程度なら余裕の域。

 自分がいた日本の大学法学部では、授業は講義とゼミに厳格に分かれていて、前者は例外なく筆記試験を課されたが、少なくともパリ1では授業の進め方も評価も講師次第。
 このような一人づつの口頭試験は、課程が上になるほど多い。人数が少なくなるということもあるが、不正を防ぐという理由も大きいのだとか。

 いずれにしても、これにて試験終了。
 あとは、農漁業省での研修をまとめた小論文と口頭査問が残る。

 試験期間が予定より遅れたこともあって論文の在仏中の完成がとても間に合わない状況なのだが、
「口頭査問は義務ではない、論文の完成度が重要」
との教授の言葉だったので、ここは安気に流れて帰国後に完成を目指すことにした。

 よって、これにて大学での勉強はいったん終了です。
(農漁業省には引き続き通っています。)

(写真は昔の学位論文審査の模様。大学構内にて)

筆記試験~農業法2009年06月11日 23時58分51秒

相変わらず大学の秘書係はいい加減で、結局いくつ試験を受ければいいのか未だにはっきり分かっていないのだが、とにかく夏の試験期間に入った。

コース主任のユドー先生、この学期末を持ってご退官なのだが、担当される「農業法」の筆記試験。

これがなんと、試験時間5時間。
フランスではそういう試験をやるらしい、と過去に留学された方から話は聞いていたが、それは昔のことでしょう?と本気にしていなかったのだが。

9時から14時なので、水と食料を持ち込んで試験に臨む。

問題は、紙1枚っぺらの2行。
「今日の農業法において、農企業は、どのような過程を経て法的位置づけを持つに至ったか」

気持ち良く晴れた窓の外を眺めながら、何を、どう構成して書こうかと、ぼーっと考える。

この「構成」が曲者。フランスでは、法学論文は、形式が決まっている。自分の答案に即して構造をたどると、

序論
第Ⅰ部 「農業者」法制の発展
 A/「農業者」法の起源
 B/耕作者保護法制の展開
第Ⅱ部 「農企業」の登場とその法的意義
 A/農業の発展に伴う「農企業」の政策的必要性
 B/具体的農企業法制の仕組み
結論

というように、全体を二部構成にし、それぞれを更に二つに分割し、というように対比的構造を取らなけらばならないという伝統がある。これを守らないとろくに評価されない。授業での口頭発表でさえそうなのだ。
しかも、ⅡAに主張の核が置かれて一番長く、その次はⅠBとか、そんな美学があるらしい。

そんなこと言ったって、対等の3つの概念があるのに、というときでも、この構造にあてはめないといけない。
最初からそういうものだと思っているフランス人はあまり苦にしないようだが、形式的美学のほかはちっとも合理性が見いだせない異文化人にとっては、厄介なことこの上ない。

春学期の授業(2)食品衛生法2009年06月08日 23時22分45秒

食品衛生法のコースにも、引き続き、聴講生として非公式参加。
こちらは1月から3月までで終わり。その後学生は、農漁業省、ダノン、法律事務所などで研修。

○ EU衛生法
EUにおける食品安全の法源、EUと加盟国との権限配分、EUのリスク管理のスキームなど。

○ 国際衛生法
国連はじめ国際機関の機能、貿易障壁と衛生規制、SPS(植物検疫規則)、食料安全保障など

○ OGM
英語でいうところのGMO、すなわち遺伝子組換え食品に関する法制、訴訟など。
フランスは、遺伝子組換え農産物についてはとても制限的。冷静な科学的議論というより、本能的な反発がまだ根強いように感じる。
1990年のEU指令(=その内容を実施する国内法の制定が必要)が、政治的な議論、紆余曲折を経て、やっと2006年に一部法制化されたほど。

ちなみに、写真は、この2月に政府の科学研究機関AFSSAが、GMトウモロコシMON810が食品として安全であると非公式に報告をまとめた、との記事。
一斉に新聞が大々的に取り上げ、夕方のテレビは討論番組が組まれ、結局政府見解はなんら変更されていない。

○ 倫理・哲学アプローチ
シャーロック・ホームズが、その登場作である『緋色の研究』において発した「我々は科学者である」発言の意味からはじまって、ギリシア、ローマから中世、近代に至る、科学観、ひいては世界観について。
今日の世界観が、クローンや遺伝子組換えをどうとらえるか、という方向に話が発展するかと皆が思っていたが、純粋に哲学の話で終わってしまったのが残念。

春学期の授業(1)農業法2009年06月08日 22時11分23秒

(パンテオン校舎構内にある、ボワソナード胸像。日本の近代法制の父。パリ大学法学部出身。我が国の法学者から1934年に寄贈。)

そういえば書いていなかった。今更ながら授業のはなし。

登録している農業法コース。

○ 国内農業法(前学期の続き)
小作契約の法的効果、農業法人の制度など。
日本における戦後の農地改革のようなドラスティックなことはフランスにおいても行っていないので、土地を持つ側と、耕す側の関係は、基本的には昔と同じ。所有者が、王侯貴族からブルジョワ、地主へ変わっていったというだけ。
「農地はその耕作者みずからが所有することを・・・適当」とする日本の農地法制のような考え方はフランスにはなく、そのかわり、耕作者(小作人)の耕作する権利の保護の法制化に、膨大なエネルギーがそそがれてきている。

○ 農業と環境の法
環境法の学者、専門とする弁護士らによる講義など

○ EU農業法
○ EU共通農業政策(PAC)と訴訟
EU共通農業政策(略称英語で CAP、仏語で PAC )について、EU農業局に属するAdam女史と、PAC専門家のVelilla氏がそれぞれ担当。
主に法的観点から、PACの主要原則、政策の分析、EU裁判所(英語でECJC、仏語でCJCE)の判例おさらいなど。

反省するなれば、もっと早くから勉強しておくべきだった。
PACこそが、直接的には一番役に立ち、かつフランス留学者として不可欠な知識なのだが、どこまで勉強しても奥が深くて極めた感じがしない。

PACは「永続的に改革」がなされている。1992年、1999年、2003年と大きな改革が続き、2008年にも、「ヘルスチェック」として当座の政策課題の修正を行ったところ。次は2013年。
改革ばっかりやっているという意味では日本の行政改革にも似ているが、決定的に違うと思うのは、理論的に合理性ある政策へ向かう一貫した大きな流れの中に位置づけられる、ということではなかろうか。

それはEUが、特に農漁業において地理的経済的条件の全く異なる国々に共通するものとして政策を決定しなければならないことから、理論的に説明できる政策を取らなければ、EUとして合意できないという事情もあると思う。
ゆえに、時に頭でっかちで現実離れすることもあり、また部分的にはフランスなど農業国のエゴがその都度阻害要因となることもあるとはいえ、単に政治的妥協の積み重ねにとどまらず、アカデミックな理論に基づいた政策として「前進」していく。

ゆえに、改革の歴史の勉強が、そのまま政策理論の勉強になる。
ひるがえってみるに、日本の農政は、どのような位置づけができるだろうか。

いずれにしても、今後、直接仕事で関わろうとなかろうと、日々前進していくPACを、学問として一通り勉強し視座を持ったひとりとして、ずっと追いかけていきたいと思う。

○ 国際農業法
GATTからWTOに至る農業交渉の流れと、環境はじめ国際農業問題を取り巻く諸問題について、OECD の Geiger 氏が講義。

○ 比較農村法入門

そのほかに、2か月の企業研修と報告書が修了要件。

秋学期の授業(5)食品衛生法 続2008年12月19日 06時20分15秒

続き。

「欧州衛生法」
EUにおける食品衛生の位置づけ、機関、加盟国間の通報制度など。

欧州人は、食品衛生に関しては、かなり敏感であるように感じる。
日本の事故米についても当然関心を持っているし、逆に中国がEUの制度を研究しているとか。


「全学生による課題研究」
今年は「飲料水の水質基準」ということで、行きがかり上、日本の法制度を担当。読んだこともない我が国の水道法を勉強する。

パートナーのソフィーが探してきた仏文文献の出来が悪くて、
「戦後の急激な経済発展を追及 → そしたら水俣病など公害が多発 → それで、水道の水質基準を制定!」
という経緯が間違っている(水質基準は公害病以前からある。)ことを、いくら説明しても納得してくれない。
その理屈だと理解しやすいのはわかるんだけどね。
外国のことを学ぶのって難しいんだなと、翻って自分はどれだけ理解しているのかなと、改めて思う。

そのほかに、科学・人権などの基礎知識、知的財産権、遺伝子組換え技術、食品産業の法などなど。

新しいこともあり、こちらの方が、よく練られたプログラムで面白いと思われる。

秋学期の授業(4)食品衛生法2008年12月18日 07時06分11秒

(↑ソルボンヌの裏側、サン・ジャック通り。セーヌ川方面を眺める。奥に改修成ったサン・ジャック塔)
農業法コースの授業のほか、「公衆衛生・食品衛生法」というマスターのコースがあって、ここにも自由聴講生ということで参加させてもらっている。

これは、開講してまだ数年と新しく、パリの農業系グランド・エコールである Agro Paris Tech とパリ1の合同プログラム。

学生は16人いて、半数がジュリスト(法学の知識のある者)、残りがエンジニア系(技術系)になるように選抜されている。
ちなみに14人が女性。留学生はポーランド1。

農業法と違って新しく成立した分野。題材も新しい。

参加している授業

「国内衛生法」
法学未習者も対象ということもあって、法とは何か、その法源は、ということで、ローマ法と教会法から始まった。
ローマ法と教会法の特性が何だとか、ユスティニアヌスがどうしただとか、ラテン語の用語解説だとか。。。

今日の仏独はじめ欧州の法は、このローマ法を、形を変えて脈々と継受してきたもの。
ローマ法なんて、大学で履修すらしなかったけれども、ローマ法という学問分野、あるいはそれ自体が、今も実定法の中で生き続けてているんだなぁと実感した。

ま、それはともかく、本題としては、法律概論のほか、
・ 薬害エイズ(フランスでは、日本と並んで行政責任が大きく問われた)の経緯と、これを契機とした法制度、判例の発展
・ 衛生関連の法規と、国内機関の外観
など。

つづく。

秋学期の授業(3)農業法2008年12月08日 07時54分36秒

(↑ソルボンヌ校舎の中庭。修復工事中。ヴィクトル・ユゴーとパストゥールの像が建つ。)

農業法第2回(おわり)。

「農業争訟法」6時間

 農業を取り巻く訴訟について、訴訟類型ごとに、すなわち民事訴訟(農地貸借契約の解除)、刑事訴訟(利水規定違反)、行政訴訟(罰金の取消)について、実際の判決文を眺めながら追うというもの。
 担当は、隣県弁護士会に所属する、農地関係訴訟に詳しい弁護士。


「農業・食品産業企業法」
 と、講座名はなっているが、食品の法規制、協同組合法制、相互連携契約という、相異なる講義からなる(試験どうなるんだ?)。
 それぞれ、農漁業省、フランス農協連盟(CFCA。日本の全中みたいなもの)の法制担当者、パリ1教授が担当。


「植物新品種と農産品保護の法」
 農業分野の知的財産権と、地理的表示(IG)など農産物の商標制度からなる。
 前者では、特許の基本的仕組みと、これと別建てになっている植物新品種の保護制度について。その国際的ルール形成はフランスが果たしてきた役割が大きく、国際機関である UPOV は、仏語名が共通略称となっている数少ない一つ(Union internationale pour la Protection des Obtentions Végétales)。今日では、国内法、国際法のほか、EUの規則が重畳する複雑な分野。
 
 後者、農産物の地理的表示については、原産地呼称統制(AOC)の意義と仕組みが中心。ワインが有名だが、チーズやオリーブなどにもある。
 ちなみに、フランスは地理的に表示に前向き、ドイツは慎重とのこと。地域の農業者に出てくるフリーライダーを許容するかどうかで根本的に意見が逆だそうで、これも国民性の表れの一つか。

 双方とも、農業法の発展過程からすれば新しく、かつ今日においてかなり重要な位置を占めてくるもの。日本でも重要な分野。


「環境法入門」
 今日の農業法、農村法を考える上で欠かせない重要な概念。
 今学期開講されるはずだが、日程が未だに掲示されていない。
 また事務の単純ミスでなければいいけれど。

「英語」通年
 英語かドイツ語が通年選択必修。われわれ6人は全員が英語を選択。
 農業・食料に関するテキストをもとに、ディスカッションや仏訳など。
 英語については、6分の3を占める我々留学生(僕も含む。)の方が、フランス人に比べて確実にレベルが上。当然ながら彼女たちが相対的に得意なのは英語の仏訳。僕程度だと、その場で仏語訳など求められようものなら、頭の中が溶解しそうな感じになる。

秋学期の授業(2)農業法2008年11月30日 08時46分02秒

(↑パンテオン校舎。旧パリ大学法学部)

授業内容について。第1回。

「EU法」通学期

 今日のEU加盟国における法制度は、国内法のみならず、EU法の理解が不可欠。特に農業に関しては、EU予算の半分近くを費す共通農業政策(仏語でPAC)なくして語ることはできない。
 ということで、EUの組織構造、法理論の概論。

 担当のマダム・パンジェル(パリ1教授)、これが相当の早口で、怒涛のように喋り続ける。その勢いを緩めることなく、口癖のように 《Est-ce que vous avez bien compris ?(ちゃんとわかったか?)》 と繰り返す。無理だって(僕には)。
 学問体系が確立しており、基本知識もあるので、まあなんとか。


「国内農業法」通学期

 コース担当のユドー先生の授業。

 「農業法」の発展過程とその特性のほか、耕作者・農地に関する法など。
 フランスには、民法典に始まって、刑法典、労働法典などいくつもの「法典」があるが、農業法典もそのひとつ。正確には《Droit Rural(農村法)》といい、農地制度を中核として、農業経営、団体法制、小作契約、生産と流通など、あらゆる分野を含む。

 フランス革命における私有財産権の確立=ナポレオン民法典から始まって、農地に関する私権が次第に変容・制限され、耕作者や農業者団体の育成、さらには農村環境、流通政策、消費者保護という今日的課題を取り込んできた、という流れ。
 これまで、日本の農業関係法令を、単に行政法規として仕事上眺めてきたが、このように学問的な位置づけから俯瞰するのは新鮮である。

 講義自体は、1987年刊の自著を忠実に読んでおられるので、僕にとっては書き取り練習でもある。


「農業組織」9時間

 すぐれてフランスに特徴的なスキームであるらしい、 Contrat d'integration、すなわち農業者と加工・流通業者との間で結ばれる「相互連携契約」とでも言うものについて、その意義と、法改正の経過についての講義。

 担当しているペロン氏は、国民議会(下院)の経済委員会の農業担当スタッフ。日本の議院調査局に相当するのだろうが、フランスでは各政党から送りこまれたスタッフが、上程された法案などをまず最初に詳細に議論検討して、自らの政党に意見を述べるという機能を有するらしい。
 ちなみに彼は社会党である。

秋学期の授業(1)農業法2008年11月29日 03時55分35秒

(↑ソルボンヌ広場より、校舎)

小学生の頃から、学校であった出来事を家でちっとも話さない子供であった様に思う。
「留学」の本旨をどこに置くか、ということはさて措くとしても、この日記でも、学校で何を学んでいるか、ということをあまり書いてこなかった様に思う。だから、

> 相変わらず旅行にいきまくって楽しんでいるのでしょうか?(^∀^)

と、職場の元部下に言われてしまうわけで。

ということで、パリ1での授業について。


<秋学期>
・EU法
・国内農業法
・農業組織
・農業・食料企業の法
・農業争訟法
・農産品保護と植物新品種の法
・環境法入門
・英語

<春学期>
・EU農業・食料法
・農業国際法
・共通農業政策と争訟
・比較農村法
・農業行政法
・農業の経済的組織
・英語

詳細はまた。

クラスメート2008年10月26日 01時24分03秒

(↑パンテオン。フランスの偉人が眠る。)


6人しかいないのである。
例年は、14、5人いるのに、である。

誰も知らないようだが、これは事務の単純ミスが響いてるんじゃないかと思っている。

パリ1の場合、出願手続きは、まずウェブサイトでコースを選択して登録する必要があるのだが、この農業法M2のコース、最初は選択肢に出てこなかった。

僕「農業法コースが、登録画面に出てこない。廃止されたのか。」
事務「そんなことはない。このページからこう進んで登録すべし。」
僕「その通りやったが出てこない。今確認してほしい。」
事務「そんなはずはない。このページの、ここをクリックして、ここに、、、、ないですね。後日追加しておくので、大丈夫です。」

と、こんなやりとりがあった。

予定のコースがウェブサイトに出てこないくらいで、出願をあきらめる程度の学生がいるのかはわからないが、
秋にも、入学手続の書類が僕にだけ送られていなかったりと、前評判通り大学事務は信用ならないので、今後も要注意である。

いずれにせよ、クラスメートが少ないというのは、ちょっとがっかりである。

ちなみに、フランス人3人のほか、いずれも在仏歴が長いトルコ人1と韓国人1。男女比は2:4。